前回、労務リスクと探偵調査の重要性について話したが、今回は実際にあった、まさにそのテーマに合致するような依頼について、詳細を語っていこうと思う。これは、単なる調査報告ではなく、企業が直面しうる「見えない悪意」と、それを巡る人間模様の深い闇を描き出すものだ。探偵稼業の裏側、そして世間にあまり知られていない労務トラブルの実情を、包み隠さずお見せしよう。
法人からの依頼:従業員の「心労」と、裏に潜む副業の影
今回の依頼主は、都内に拠点を置くある法人だった。従業員数数十名の中堅企業で、近年、事業拡大に伴い人材採用を積極的に行っていたという。相談内容は、従業員の素行調査だった。
問題の中心にいたのは、社内のごく一部の従業員で構成された、ある「グループ」だった。彼らは、就業時間中にまで及ぶ形で、副業として不動産取引や投資マンションの購入などを活発に行っていたという。当時の会社の就業規則には「副業禁止」の明確な規定はなかったものの、原則として副業は禁止という認識で運営されていた。会社側も、プライベートな時間で行う分には黙認していたようだ。多くの企業がそうであるように、従業員の私生活にまで深く立ち入ることは避ける、というスタンスだったのだろう。
しかし、彼らの行動はエスカレートしていった。会社のPCを使い、社内ネットワークで不動産情報を閲覧したり、私用電話で業者と頻繁にやり取りしたり。時には、他の従業員の目もはばからず、社内で堂々と副業に関する打ち合わせのようなことまでしていたらしい。これはもはや「プライベートの延長」とは言えない、明らかな職務専念義務違反だ。
会社側は度々、彼らに対して厳重注意を繰り返したという。最初は口頭で、次に書面で、そして最終的には懲戒処分も辞さないという強い姿勢で臨んだはずだ。だが、彼らは改善の兆しを見せなかった。おそらく、彼らは自分たちの行動が「悪いこと」であるという認識が薄かったか、あるいは「就業規則にない」ことを盾に開き直っていたのかもしれない。しかし、会社という組織に属する以上、職務に専念する義務があるのは、言わずもがなだろう。
特に、そのグループの中心にいた一人の男性従業員は、注意されても態度が悪く、反省の色が全く見えなかったため、会社は最終的に彼を解雇した。これは、企業としては苦渋の決断だったはずだ。従業員の解雇は、常に法的なリスクを伴う。しかし、他の従業員への示しや、企業秩序の維持を考えれば、看過できない行為だったのだろう。
この男性従業員の解雇が、後に続く深刻なトラブルの引き金となった。
解雇された男性従業員と同時期に、そのグループに所属していた別の男女が、突如として「心労」を理由に休業し始めたのだ。驚くべきことに、二人とも同じ病院で診断書を提出してきたという。この時点で、私の中では「臭い」と感じるアラートが鳴り響いた。偶然にしてはできすぎている。
会社側がその病院名をネットで調べてみると、案の定、そこは「簡単に診断書を出す病院」として、一部では悪名高い医療機関であることが判明したという。現代社会では、精神的な不調を訴える人が増えている一方で、残念ながら、そうした人々の弱みや企業のコンプライアンス意識の高まりを逆手にとって、安易に診断書を発行する医療機関も存在すると聞く。それが、今回の件でも浮上してきたわけだ。
この一連の状況から、会社側は強い疑念を抱いた。
「これは、以前副業を咎められ、さらには仲間が解雇されたことへの逆恨みではないか? 心労を装い、会社から不当に休業補償と損害賠償を取ろうとする手口ではないか?」
彼らの疑念は、探偵としての私の長年の経験から見ても、非常に的を射ていた。これは、近年増加傾向にある、いわゆる「休職詐欺」や「居直り労務トラブル」の典型的なパターンだと直感した。企業が真摯に対応しようとすればするほど、悪質な従業員にとってはつけ入る隙となるケースが少なくないのだ。
そこで、会社はまず、この男女二人の素行調査を行うことを決断した。この調査が、後に続く法廷闘争の行方を左右する、重要な**「確たる証拠」**となることを、この時の彼らはまだ知る由もなかっただろう。
調査開始:男性従業員のマンションでの張り込みと、予期せぬ発見
先ずは、男性従業員の調査から始めることになった。彼の住むマンションの住所を元に、綿密な事前調査を行った。
マンションの構造、エントランスの出入り口の数、裏口や非常階段の有無、そして防犯カメラの位置。周辺の地理、最寄りの駅やバス停、コンビニ、カフェなどの利用されそうな施設。車やバイク、自転車の有無と、それらが利用される可能性。探偵の張り込みは、決して対象者を視界に捉えるだけで終わるものではない。いかに自然に、いかに長時間、対象者の動向を把握できるか。そのためには、対象者の生活圏を事前に把握し、あらゆる可能性を想定した上で、最適な張り込みポイントを選定する必要がある。今回は、車両での張り込みがメインとなるため、駐車スペースの確保も重要な要素だった。
そして、張り込みを開始した。早朝から、男性のマンション前で車両を停め、息を潜める。車内の私は、目立たないようにサングラスをかけ、顔を隠しながら、行き交う人々の中に溶け込む。長時間同じ場所にいると不審に思われるため、時折、車を少し移動させたり、あたかも駐車場の空きを待っているかのように見せかけたりする。探偵の張り込みは、単調に見えて、常に周囲への警戒と細やかな状況判断が求められる、非常に神経を使う作業だ。
数時間が経過した頃だった。マンションのエントランスから、なんとなく見覚えのある女性が出てきた。その瞬間、私の探偵としての勘が強く反応した。「ん?どこかで見た顔だぞ…」
その女性は、今回の調査対象の一人である、休業している女性従業員に酷似していたのだ。依頼者から提供された女性の住所は、もちろん別の場所だった。もし二人が一緒に住んでいるとすれば、これは大きな発見だ。彼らが単なる同僚ではなく、もっと深い関係にあることを示唆している。
しかし、今日の目的はあくまで男性従業員の素行調査だ。彼女が誰であろうと、今は男性の動向を追うことに集中しなければならない。興奮を抑えつつ、女性の姿を見送った。彼女がどこへ向かうのか、気にはなったが、無理に追跡すれば、今日の男性の調査に支障が出る可能性もある。探偵は常に、最優先事項とリスクを天秤にかける。
それからおよそ30分後。満を持して、今回の調査対象である男性従業員がマンションのエントランスから出てきた。彼の表情は、心労で休職している人間には見えなかった。むしろ、どこか気楽そうで、解放されたような顔つきに見えた。
男性は、近くのチェーン店の定食屋に入り、昼食を済ませた。ごく一般的な定食を美味しそうに平らげ、食後にはスマートフォンをいじっていた。その後、コンビニに立ち寄り、飲み物や雑誌を購入し、再びマンションへと帰宅した。これ以降、その日の男性に大きな動きはなかった。
日没後、私は一旦張り込みを中断し、依頼者に簡単な中間報告を入れた。男性の外出状況と、その際の様子、そして「男性のマンションで、休業している女性従業員に似た女性を見た」ということを告げた。
私の報告を聞いた依頼者は、驚きを隠せない様子だった。「え、あの二人、もしかしたら恋人関係なのかもしれません…」と、意外な情報を付け加えた。彼らの社内での関係性はあくまで同僚として認識されていたのだろう。しかし、私が見た限り、彼女の行動は、単なる同僚の家を訪れるというレベルではなかった。
決定的な瞬間:繁華街でのデートと「心労」の仮面
翌日も調査を行った。この日は週末。もし二人が恋人関係であれば、休日にデートをする可能性が高いと踏んでいた。
そして、その予感は的中した。
夕方ぐらいになった頃、男性のマンションから、男性と例の女性が二人で出てきたのだ。彼らは顔を見合わせてにこやかに話し、自然な仕草で手を繋ぎ、繁華街へと向かい始めた。明らかに恋人同士の雰囲気だ。私のカメラは、その瞬間をしっかりと捉えていた。
二人は繁華街のイタリアンレストランに入店した。私は外から二人の様子を伺いつつ、店内の配置を確認し、自然な形で入店できる席があるかを判断した。幸いにも、二人の席が見える位置に空席があったため、私も客を装って中に入った。
店内から二人の様子を観察する。彼らは楽しそうに食事をし、身を乗り出すようにして会話に興じていた。女性は男性の冗談に笑い、男性も女性の言葉に大きく頷く。メニューを選ぶ時も、お互いの意見を尊重し合い、ワインを傾けながら談笑している。
とても「心労」で苦しんでいるようには見えない。
彼らの表情は明るく、会話は弾み、身体に不調を抱えているようには微塵も感じられない。心身の不調を理由に休職している人間が、これほどまでに満喫した表情でデートを楽しむことは、通常では考えられないことだ。それは、彼らが提出した診断書の内容とは、あまりにもかけ離れた現実だった。
二人は食後もカフェで過ごし、夜遅くまでデートを楽しんでいた。この状況は、彼らが「心労」を詐称し、会社を欺いているという十分すぎる証拠になるだろう。私のカメラとビデオカメラには、彼らの楽しげな様子が詳細に記録されていた。これは、法廷でも通用する、決定的な証拠だ。
この後も、私は数回にわたり、二人の素行調査を行った。その結果、他の日でも、彼らがカフェでくつろいだり、ショッピングを楽しんだりする姿など、複数のデートの様子を収めることができた。これらの証拠は、彼らが主張する「心労」がいかに虚偽であるかを雄弁に物語るものだ。
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