たった一人で、反社会勢力と戦った主婦がいた。
堀江ひとみさんである。（享年77歳）
事件は昭和60年（1985年）9月23日、兵庫県尼崎で起きた。
この年、関西は阪神の21年ぶりに優勝で沸く一方、暴力団同士の抗争が激化していた。
駅前のスナックで発砲事件があり、当時、堀江さんのひとり娘、まやさん（19歳）は、
たまたま現場に居合わせたため、流れ弾により死亡した。
堀江さんは、娘の遺体に復讐を誓った。
実行犯の組員は程なく逮捕されたが、暴力団は組長の命令で動く。
そこで、組長の使用者責任を取らせるため、損害賠償の民事訴訟を起こす。
訴訟を起こしてからの、暴力団の嫌がらせは、常識を逸しいていた。
毎日のよう鳴る、強迫電話。
駅のホームで、落とされかけたのは１度や２度ではない。
位牌を抱えながら、裁判所に出廷するときにも、組員に威圧をかけられ、突っ込まれたりもした。
だが、彼女は怯むことなく、凛として戦った。
そして、７年の歳月を経て、平成４年、彼女の実質的勝訴となる、和解が成立した。
判決が出るまでの7年間は、壮絶を極めたに違いない。
彼女の行った裁判により、組長の使用者責任を取らせる、判決が相次いで出るようになった。
それまで、違法な暴力団組織に民法の使用者責任が適用されるかどうか、当時の専門家の間では懐疑的だった。
彼女は賠償金の一部を使い、「暴力団被害者の会」を遺族や弁護士、警察ＯＢらで結成した。
暴力団の排除を訴えるため、全国を駆け回った。
彼女は、死ぬまで戦い続けた。
そして、平成24年4月15日、彼女は息を引き取った。
心からご冥福をお祈りします。
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