~探偵の日常~16号線、夕暮れのサイレン:探偵が見た「緊急車両」のジレンマと、自らの“正義”

探偵としてこの15年、町田、相模原、横浜の道を駆け抜けてきた。時に獲物を追う獣のように、時に風のように。しかし、どんなに急いでいようと、現場への道中で遭遇する予期せぬ出来事には、職業柄、どうしても目がいくものだ。先日、まさにそんな場面に遭遇した。調査現場へ向かう途中の出来事だ。それは、日常に潜む「ルール」と「現実」、そして探偵という稼業における「正義」について、改めて考えさせられる経験となった。


夕方の16号線、救急車のジレンマ

その日は、夕方の16号線をバイクで走っていた。都心と郊外を結ぶ幹線道路は、いつもながらの渋滞だ。調査開始時刻が迫っており、一分一秒を争う状況だった。焦燥感を抱えながら、すり抜け気味に車の間を縫って進んでいく。

その時、前方からけたたましいサイレンが聞こえてきた。救急車だ。救急車が緊急走行している。救急隊員たちの緊迫した表情が目に浮かぶ。緊急車両が来れば、一般車両は道を譲るのが当然の義務だ。二車線道路の車たちは、それぞれの車線をギリギリまで端に寄せ、救急車に進路を開けようと努める。しかし、夕方の渋滞は尋常ではなく、特に大型のトラックなども混じっているため、車体を寄せたくても物理的にスペースがない。救急車は渋滞に完全にハマり、停車状態に近かった。

その救急車のすぐ後ろを、私を含め数台のバイクがトロトロと続いていた。バイクは車よりも小回りが利き、わずかな隙間でもすり抜けられる。だからこそ、救急車が通るためにできたわずかなスペースを、まるで恩恵に預かるかのように、救急車のすぐ後ろをついていくバイクは少なくない。私も初めはそうしていた。それが「緊急車両に道を譲る」という行動の一環であり、最も安全な追従方法だと考えたからだ。

しかし、しばらくそうして走っているうちに、なんとも言えない煮え切らない感情が湧き上がってきた。救急車は一向に進まない。彼らが一刻を争っていることは、サイレンの音と、車両の揺れ方から痛いほど伝わってくる。だが、このまま後ろをノロノロとついていっても、何の意味もない。彼らの進路を妨げているわけではないが、かといって、彼らの緊急性を助けているわけでもない。むしろ、私自身が調査現場に間に合わなくなるという、別の「緊急事態」に直面していた。

ふと、頭をよぎった。

「救急車を抜かしちゃいけない、なんて法律、聞いたことないぞ?」

瞬間的に、私は判断を下した。渋滞にハマって停車している救急車の横を、私は慎重に、しかし素早くすり抜けた。 そして、たった一人、渋滞の16号線を快走し始めた。


救急車を追い越す行為は「違反」なのか?

調査を終えて事務所に戻り、あの時の判断が正しかったのか、ふと疑問に思った。救急車を追い抜いてはいけない、という漠然とした「常識」のようなものはあったが、それが具体的にどのような法規に基づいているのか、あるいは単なる暗黙の了解なのか、確かではなかったからだ。

そこで、早速調べてみた。結果は、やはりというか、思った通りというか……。


道路交通法における「緊急車両」の規定

まず、緊急車両に関する基本的な規定を確認する。

道路交通法 第三十九条(緊急自動車の優先)

緊急自動車(消防用自動車、救急用自動車その他の政令で定める自動車で、当該緊急用務のため、政令で定めるところにより、運転中のものをいう。以下この節において同じ。)は、法令の規定により、一時停止すべき場所においても停止することを要せず、そのことについては、他の車両は、当該緊急自動車の進行を妨げてはならない。

道路交通法 第四十条(緊急自動車の優先)

1 交差点又はその附近において、緊急自動車が接近してきたときは、路面電車は交差点を避けて、車両(緊急自動車を除く。以下この条において同じ。)は交差点を避け、かつ、道路の左側(一方通行となつている道路においてその左側に寄ることが緊急自動車の通行を妨げることとなる場合にあつては、道路の右側。次項において同じ。)に寄つて一時停止しなければならない。

12 前項以外の場所において、緊急自動車が接近してきたときは、車両は、道路の左側に寄って、これに進路を譲らなければならない。

これらの条文が示すのは、緊急自動車には明確な優先権があり、他の車両はその「進行を妨げてはならない」という義務を負う、ということだ。

では、「追い越し」が「進行の妨害」に当たるかどうかの解釈だが、これは運用上の解釈によって、原則として「進行妨害」と見なされる可能性が高い。

緊急車両は、一刻も早く目的地に到達するため、他の車両よりも優先して進むことが許されている。追い越しは、追い越した車両が緊急車両より前を走行することを意味する。これにより、緊急車両の運転手は、前を走る車両の動きに注意を払う必要が生じたり、もしその車両が急減速や予期せぬ動きをすれば、緊急車両の安全な走行が妨げられる可能性がある。たとえ「邪魔をしていないつもり」であっても、緊急車両の走行に余計な判断や注意を強いること自体が、広義の「進行妨害」と解釈されるわけだ。

実際、多くの都道府県警察のウェブサイトや、JAFなどの交通安全に関する情報サイトでは、緊急車両が接近してきた際には、進路を譲るだけでなく、「追い越してはならない」という注意喚起がなされている。これは、明文化された条文で直接「緊急車両の追い越し禁止」と記載されていなくとも、上記の法第39条や第40条の「進行妨害をしてはならない」という原則に照らし合わせて、追い越し行為は「妨害」に当たると解釈されているためだ。

したがって、私のあの時の行動は、厳密な交通法規に照らせば、違反と見なされる可能性があった、ということになる。


探偵の「正義」と法律の狭間で

法的な結論は出た。私の行動は「セーフ」ではなかったかもしれない。しかし、あの時の私自身の判断は、果たして間違いだったのか?

あの時、救急車は確かに進めずにいた。私も含め、数台のバイクがその後ろで待機していたところで、状況は変わらなかっただろう。むしろ、微々たるものではあるが、私のバイク一台が前に進むことで、その分のスペースが後ろに生まれ、救急車がより車間距離を詰める助けになった可能性すらある。もちろん、これは詭弁かもしれないが。

しかし、探偵という稼業において、「時間」は命だ。調査の開始時間に遅れれば、対象者の行動を見逃し、決定的な証拠を取り逃がす可能性がある。それは、依頼人の人生を左右するかもしれない重大な損失に繋がりかねない。もちろん、人命救助が最優先であることは言うまでもない。だが、私の行動が救急車の進行を「妨害」したかといえば、あの状況では、むしろ私が前に進むことで、全体の流れを少しでも円滑にしたとさえ感じたのだ。

「進行の妨害をしていないのでセーフのはず」

あの時、私がそう考えたのは、まさにこの「現実」と「法律の条文」の間で、探偵としての独自の判断基準が働いたからだろう。法律は秩序を保つために必要不可欠なものだが、時には現場の状況と乖離することもある。特に、一刻を争う「緊急性」という点においては、私の調査もまた、ある種の緊急性を帯びていたのだ。

もちろん、これは自己正当化に聞こえるかもしれない。しかし、探偵として現場で即座に判断を下さなければならない場面は数多くある。例えば、対象者を見失いそうになった時、信号無視を躊躇するか、それとも一瞬の判断で突破するか。常に、「最善の結果」を得るために、許容できるリスクを負うことを迫られる。それは、合法と非合法のギリギリのラインを攻めることさえある。

今回のケースは、その典型的な例だった。私は、救急車の進行を妨げずに、かつ自分の任務を全うするために、あの時「追い越す」という選択をした。結果的に、調査現場には間に合い、その後の調査も順調に進んだ。


法の厳格さと「現場」の現実

 

今回の経験は、探偵という特殊な職務に就いているからこそ感じる、法律の厳格さと現場の現実の間の溝を浮き彫りにした。

法律は、あくまで「原則」を定めるものだ。 どのような状況でも一律に適用されるべきであり、その厳格さが社会の秩序を保つ。しかし、現実の社会は常に変化し、予測不能な状況が次々と発生する。特に、交通のように流動的な状況では、一律のルールが必ずしも「最善」の結果を導くとは限らない場合もある。

もちろん、これは交通違反を推奨するものではない。緊急車両の優先は絶対であり、その進行を妨げてはならないという原則は、人命に関わる重要なルールだ。探偵として、私は常に法を遵守する立場にある。しかし、あの時の行動は、法的な解釈のグレーゾーン、あるいは「緊急避難」に近い感覚だったのかもしれない。

探偵の仕事は、法的な証拠を集めることにある。しかし、その証拠を得るまでの過程には、法律では規定しきれない「現場の判断」が数多く存在する。それは、対象者の警戒をかいくぐり、人々に紛れ、状況に応じて変幻自在に動くことを意味する。時には、一般の人には理解されない、あるいは批判されるかもしれない行動を取ることもあるだろう。


探偵の「正義」:法と倫理、そして依頼人のために

 

探偵の「正義」とは何だろうか。それは、法を遵守することだけではないと私は考えている。依頼人の抱える深い苦悩を解消し、真実を明らかにし、彼らが人生の次のステップに進むための「道筋」を示すこと。それが、探偵としての最も重要な使命だ。

今回のケースで、私は法的なグレーゾーンを踏み越えたかもしれない。しかし、それは、依頼人の期待に応え、調査を成功させるという、探偵としての「職責」と「正義」に基づいた判断だった。もちろん、この判断が常に正しいとは限らないし、より安全な選択肢があったかもしれない。だが、現場では一瞬の判断が全てだ。

この出来事を振り返り、改めて心に刻んだことがある。それは、常に状況を冷静に判断し、許容できるリスクの範囲で最善の結果を追求すること。そして、その行動がどのような法的な意味を持つのか、常に知識として持ち合わせていることだ。

サイレンを鳴らす救急車を追い抜く行為は、確かに道交法に照らせば疑問符が付く。だが、あの時の私には、調査現場に間に合わない方が「アウト」だったのだ。依頼人の信頼を裏切ることなく、真実を掴む。それが、探偵としての私自身の「正義」なのだから。


 

 

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