探偵の仕事は浮気の証拠を掴むことだが、その証拠が必ずしも依頼人の望む結果に直結するとは限らない。
今回は、浮気調査で決定的な証拠が揃ったにもかかわらず、浮気相手への慰謝料請求が認められないことがある、という、探偵としても歯がゆい現実について話そうと思う。
慰謝料請求が認められない二つのケース
浮気相手への慰謝料請求は、探偵が収集した証拠に基づいて行われる。しかし、その請求が法的に認められないケースはいくつか存在する。その代表的なものが、以下の二つだ。
- 浮気相手が、あなたの配偶者が既婚者だと知らなかった場合
- 浮気相手が自己破産した場合
一つ目のケースは、探偵の調査によって「浮気相手が既婚者と知っていたかどうか」を証明することで、争う余地が生まれる。
例えば、浮気相手が配偶者の職場の上司や同僚で、結婚式の写真を見せたり、家族の話をしていたという事実が確認できれば、「知らなかった」という言い分は通用しない。
しかし、二つ目のケース、つまり浮気相手が自己破産した場合は、探偵の調査だけではどうにもならない、法的な壁に直面する。
自己破産とは、多額の借金を抱え、経済的に立ち行かなくなった人が、裁判所の決定により、原則として全ての借金の支払い義務を免除してもらう制度だ。この「借金」には、慰謝料も含まれる。
つまり、慰謝料の支払い義務も免除されてしまうのが原則なのだ。
自己破産しても免責されない「非免責債権」とは
自己破産をしても支払い義務が免除されない借金、それが「非免責債権」だ。
破産法第253条第1項には、非免責債権が定められている。慰謝料請求が該当するかどうかは、特に以下の二つの項目が争点になる。
- 二号:破産者が悪意で加えた不法行為に基づく損害賠償請求権
- 三号:破産者が故意又は重大な過失により加えた人の生命又は身体を害する不法行為に基づく損害賠償請求権(前号に掲げる請求権を除く。)
このうち、浮気相手への慰謝料請求は、「三号」には該当しない。不貞行為は「人の生命又は身体を害する」不法行為ではないからだ。
そのため、慰謝料請求が認められるかどうかは、「二号の『悪意』に基づく不法行為か」どうかが鍵となる。
「悪意」の解釈と、慰謝料請求の壁
ここでいう「悪意」とは、法的な意味で、「積極的に相手に損害を与えようとする意図」を指す。
つまり、浮気相手が、「あなたの配偶者と不貞行為をすることで、あなたに精神的な苦痛を与えてやろう」という明確な「害意」を持っていたかどうか、が問われる。
この「悪意」の解釈を巡って争われた判例がある。
裁判例(東京地裁判決平成28年3月11日判例タイムズ1429号234頁)
これは、不貞行為によって妻(原告)が、浮気相手(被告)に慰謝料を請求した裁判だ。しかし、被告はすでに自己破産をしており、「慰謝料の支払い義務は免責された」と反論した。
裁判の焦点は、被告の不貞行為が「悪意」に基づくものだったかどうか、に絞られた。
判決文には、以下のように記載されている。
「被告が一方的にA(注:原告の夫)を篭絡して原告の家庭の平穏を侵害する意図があったとまで認定することはできず、原告に対する積極的な害意があったということはできない。」
つまり、裁判所は、浮気相手の不貞行為が「夫婦関係を積極的に破壊しようとする意図」や、「原告に対する積極的な害意」まであったとは認めなかったのだ。
この判例によると、浮気相手が自己破産をした場合、慰謝料請求は認められない、という厳しい現実が示されている。
探偵クロキが思うこと:慰謝料請求の「落とし穴」
探偵の仕事は、クライアントに真実を伝えることだ。
そして、その真実には、希望だけでなく、こうした厳しい現実も含まれる。
私たちは、浮気の決定的な証拠を掴むことができる。
ラブホテルへの出入り、密会、そして不貞行為の様子。
しかし、たとえこれらの証拠が完璧に揃っていても、相手の経済状況や法的な手続きによっては、慰謝料請求が全く意味をなさなくなることがあるのだ。
この「自己破産」という問題は、探偵としても、そしてクライアントにとっても、大きな「落とし穴」だ。
調査を開始する前に、浮気相手の経済状況を詳細に調べることは難しい。したがって、調査が終わり、いざ慰謝料請求に進もうとした段階で、この問題が発覚することもある。
依頼人が抱く「探偵に依頼すれば、浮気の証拠を掴んで、浮気相手から慰謝料をきっちり取れる」という期待は、必ずしも叶うとは限らない。
それが、探偵という仕事の、そして現実の複雑さなのだ。
だからこそ、私たちは調査の段階で、依頼人に対し、こうした法的なリスクや、慰謝料請求の難しさについても、しっかりと説明する必要がある。
依頼人の期待を無闇に煽るのではなく、冷静に現実を伝え、最善の選択肢を共に考えること。それが、探偵クロキとしての使命だと私は信じている。
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